それから一時間後、衛宮家の居間にはかつて無い大所帯がいた。
俺・凛・桜、そして、俺のサーヴァントのセイバー、凛のサーヴァントのアーチャー、桜のサーヴァントのライダー、合計六人。
その六人の内三人が日本茶を無言で啜る。
そしてそれぞれの後方ではサーヴァントが臨戦態勢で構えている。
有る意味シュールな光景だった。
聖杯の書四『白き少女・鉛の巨人』
ランサーが立ち去った後、改めてグローブを填めなおす俺に
「シロウ!!」
「ああ、セイバー」
直ぐにセイバーが俺に近寄る。
「シロウ!大丈夫ですか?ランサーに危害を加えられませんでしたか??」
「大丈夫だ。ランサーは俺に愚痴を言っただけだったからな」
「ぐ、愚痴??」
「ああ、よほどマスターに恵まれていない様だ。最後まで俺がマスターだったらと言っていたよ」
軽く苦笑する。
絶大なる力を持ち伝説に語られる大英雄クー・フーリンにそこまで買い被られるとは思わなかった。
「これは心配して損をしましたね。シロウは私よりもランサーの方が良いと?」
俺の言葉にやや機嫌を損ねたように言うセイバーに俺は本心をそのまま言葉にした。
「いや、俺のサーヴァントはお前だけだ」
「!!!!!」
何故かその言葉に酷くセイバーは動揺した。
心なしか頬が紅潮しているようだが・・・
「??セイバーどうした??」
「い、いいいいい・・・いえ!!な、なななな何でもありません!!」
俺の疑問に不必要なほど力を入れて言うセイバー。
と、そこへ
「衛宮君」
「先輩」
背筋が凍り付くような・・・先刻のランサーなど比ではない・・・重圧の篭った声と視線が俺に降り注ぐ。
「な、なんだ・・・どうしたんだ??凛、桜」
「衛宮君・・・いくら自分のサーヴァントでもして良い事と悪い事があるのよ」
「先輩・・・不潔です」
なんでさ。
思わぬ出てきた理不尽な言葉に俺は首を捻るだけであるが、
「取り敢えず家に来るか?大分身体冷えているだろ?」
「へっ??」
「えっ??」
「なっ!!!」
その言葉に凛・桜・セイバーは絶句しライダーは俺を信じられないものを見るような呆れた表情を作る。
ただ一人アーチャーはなにやら悟りきった表情をしているのが気になったが。
「ちょっと!!あんた今の状況わかっているの!!」
「何って・・・今俺がセイバーを召喚した事で七体のサーヴァントが召喚されたんだろ?」
「そうよ!!つまりあんたとは・・・」
「名目上は敵同士・・・と言いたいんだろ?」
「そこまでわかっているんなら・・・」
「でも俺にとっては二人とも大切な後輩と友人だがそれがどうかしたのか??」
「なっ!!」
「せ、先輩??」
「それに色々聞きたい事もあるからな。敵だの味方だのそんな事は後でも充分だろ?」
「「・・・」」
俺の言葉に凛は呆れきった、桜は嬉しいのか怒っているのかそんな複雑な表情を見せてから
「はあ・・・まあ、あんたがそんな性格なのは判りきっていたから、今更四の五の言っても仕方ないわね。丁度良いからこの際、私もあんたに聞きたい事あるし洗いざらい聞かせて貰うわ」
そう言って不敵な笑みを見せる凛。
「・・・お手柔らかにな」
俺としては引き攣った笑みでそう答えた。
そして居間で人数分の日本茶と茶請けを用意する。
実際に啜っているのは俺と凛・桜の三人だけであるが。
「さてと・・・」
お茶を飲み終えた凛が俺の視線を向ける。
「衛宮君、早速聞かせてくれるかしら??」
「ああ、全部は話せないがな」
「取り敢えず差し障り無い所から行こうかしら?あんた、ランサーとどうやって渡り合ったの??」
「どうやって?そりゃ投影でゲイ・ボルク、ヴァジュラ、あとカラドボルグを造って・・・」
「タイム、衛宮君あんた投影で渡り合ったの??ランサーと??」
凛が俺の言葉を遮る。
心なしが全身を震わしているような気もする・・・
「ああ、そうだが」
その瞬間凛の手からガンドが至近で撃ち込まれる。
「おわっ!!」
間一髪で避ける。
「ちっ、避けたか」
「何をする!!正気か!!!」
「そりゃこっちの台詞よ!!あんた投影がどんな魔術かわかっているの!!」
「ああ、オリジナルのレプリカを魔力で複製するんだろ」
「そうよ!!」
「先輩!!投影は効率が悪いんです!!どんなに巧妙に複製しても中身は無い空っぽな作り物、おまけにどんなに熟練した魔術師でも数分ともちません!!そんなものでサーヴァントと渡り合うなんて無謀を通り越して・・・」
桜も激昂した後で口をつぐんで涙ぐむ。
「いや、それがな・・・」
「サクラ」
俺が何か言う前にライダーが口を挟む。
「ライダー?」
「あれが空っぽとはとても思えません。あの時彼はランサーの槍と技をほぼ完全に模倣していました」
そうか・・・ライダーはこの中では唯一俺の投影を至近で見たんだったな・・・
「それってどう言う事?」
「ああ、俺の場合武器・・・殊に剣に類する物の投影に関しては優れているようなんだ」
「武器の?」
「ああ、何しろ俺の二人目の師匠が『お前の投影は剣と言うカテゴリーに関しては、投影の常識で論じる事自体が馬鹿馬鹿しい』って呆れていたからな・・・」
「二人目だと??」
そこに今まで黙っていたアーチャーが口を挟む。
「衛宮君、二人目ってどう言う事??」
「ああ、俺の最初の師匠は親父でな・・・親父が死んだ後、ある人が俺の師匠になってくれた」
「先輩のお父さんが?」
「ああ、外から来たモグリの。無論二人目の師匠も外からだけど」
「あんた・・・良く信じようと思ったわね。冬木には遠坂と没落した間桐しか魔術師は居ない。仕方ないと言えば仕方ないけど・・・」
「まあな、そんな悪い人じゃないし・・・」
その代わり無理難題は平気な面で出す人だったけど・・・
心の中でそう付け加える。
「じゃあ先輩のつけている魔力封じのグローブとブレスレットも・・・」
「ああ、師匠からもらった。『お前の魔術は異端だからばれない様にしておけと』言われてな」
そして、『聖杯戦争』でマスターに選ばれなくても隠密のうちに『大聖杯』を破壊する為に・・・
「そう・・・判った。次に衛宮君、あんたセイバーを召喚した時呪文詠唱していたわよね??」
空恐ろしい笑顔であくまが聞いてまいります。
「ああ、それがどうかしたか??」
「誰から聞いたの?それ?」
「は??どう言う事だ??」
「先輩、最初の詠唱で『祖には我が大老シュバインオーグ・・・』と言っていましたよね?」
「ああ・・・!!」
やばい・・・内心汗をかきまくる。
そうだ、凛達の大師父はゼルレッチ老だった・・・
「さ、さあ・・・俺は師匠から『万が一マスターにならざる負えない状況に追い詰められたらこの呪文を詠唱しろ』としか言われていないから・・・な、何も知らないぞ」
まずい、声が震えている上に裏返っている・・・
ああ視線も合わせられない・・・
チラッと見れば・・・うわぁ〜姉妹揃って疑わしげな視線・・・
「そう・・・まあ良いわ。この件についてはまたじっくりと聞かせてもらうとして、今の所、話はここまでにしましょうか?それとこれから教会に行くわよ」
「教会??」
「ええ、そこの神父が聖杯戦争の監督を行っているのよ。一応顔を出しておくわよ・・・あんまり出すのはいやだけど」
凛は心底嫌そうに言い、桜も若干弱ったような表情を浮かべるだけだった。
こうして俺と凛、桜は再び夜の街を歩く。
アーチャー・ライダーは霊体となりぴったりと二人を守る。
しかし、セイバーは、
「ねえセイバー、本当に霊体になれないの??」
「はい、申し訳ありませんが・・・」
「変な話ですね。先輩との魔力供給は完璧なのですよね?」
「はい、質も量も申し分ない程です」
「大方召喚の手はずを間違えたんじゃないの?何しろ何も無い状態でサーヴァントを召喚するなんて無茶やったんだから」
「姉さんそれを言ったら姉さんも・・・」
「うぐ・・・桜それを言わない」
そう、セイバーは霊体になる事は出来ず止むを得ず、セイバーには雨合羽を着せ連れている。
「申し訳ありませんシロウ」
「いや、セイバーが悪い訳じゃない。凛の言うとおり、無茶な召喚方法を行ったのは事実なんだ。ならば責められるのは俺だろう」
そう言っている間に俺達は深山から大橋を渡り新都に入る。
そして坂を上がった所に冬木教会があった。
「ここよ。アーチャー、ライダー貴方達はここで待機していて」
「セイバー、君は・・・」
「私もここに残ります」
「そうか、じゃあ待っていてくれ」
「はい・・・それとシロウ」
「なんだ??」
「ここの神父にはくれぐれも用心を・・・」
「・・・ああ・・・そうだったな」
誰にも聞こえないほど小さく呟いてから、俺は凛の後について教会に入って行った。
教会内は人など一人もおらず静まり返っていた。
「綺礼!いないの!!」
凛の声が木霊となる。
「いない様ね。じゃあ帰りましょうか」
あっさりと踵を返そうとするがそこに
「私を呼んでおいてもう帰ると言うのかね?凛」
奥から礼服を身に纏った男が姿を現した。
「なんだ、いたんだ・・・一応報告に来たのよ。七人のマスター、七騎のサーヴァント、全て揃ったわ」
「そうか・・・で、その少年は?」
「最後のマスターよ」
「衛宮士郎だ」
「!・・・そうか・・・」
男は俺の名を聞いて一瞬表情を歪めたが直ぐに改める。
「私は言峰綺礼。この教会の神父と共に今回の聖杯戦争の監督役を務めている。それで凛、彼には聖杯戦争の事は」
「一通り・・・と言うか全部知っているわ」
「そうか・・では尋ねる。遠坂凛・遠坂桜・そして衛宮士郎。お前達はこの聖杯戦争を・・・」
「戦わせてもらうわ」
「私もです」
「・・・」
「・・・衛宮士郎お前は?」
「俺は・・・聖杯の願いには何の興味は無い」
俺の言葉に一瞬喜色を浮かべる二人。
しかし俺はそれを裏切る。
暫し迷ったがきっぱりと言い切る。
「だが・・・聖杯自体に用があるんでな。参加させてもらう」
横から二人の息を飲む音が聞こえた。
「そうか・・・ではこの時点より聖杯戦争を開戦とする」
「そう・・・じゃあ私達はこれで帰るわね。衛宮君、桜、帰るわよ」
「はい・・・」
「ああ・・・」
そう言って踵を返した凛について行く桜。
そして俺もついて行こうとした時、
「ああ、待ちたまえ」
言峰が呼び止めた。
「なんだ、前回のアーチャーのマスター」
「・・・ほほう私の事を知っているのかね??」
「さっきも言っただろう。聖杯自体に用があるとな。色々調べさせてもらったよ。十一年前の大火災の真相から今聖杯に何が起こっているかまで・・・何から何までな」
「それでも君は衛宮を名乗るのかね??」
「親父が行ったことは結果としては正しかった。そして親父はたった一人でその十字架を背負い続けた。親父には罪は無い。仮にあったとしても既に罪は清算した。罪があるとすればそれは、今聖杯に潜んでいる奴とそれを呼び出した奴・・・」
「で君は聖杯をどうする気かね??」
「元から完全に破壊する」
「その為なら他者をも犠牲にすると??」
「殺す気も・・・犠牲にする気も無い。俺は誰一人傷付ける事無くこの聖杯戦争を戦い抜く。だがな・・・もし俺のやる事を邪魔する奴が居たとするなら・・・」
殺気を一気に噴き出す。
「完膚なきまでに潰す」
それを見て言峰が満足そうに笑う。
「これは愉快だ。血が繋がらなくともお前はやはりあの男の正統な継承者だ」
「余計なお世話だ。お前にお墨付きをもらっても嬉しくもなんとも無い」
その言葉に背を向けて俺は教会を後にしようとした。
「それと衛宮士郎」
そんな俺に言峰は更に声をかける。
「なんだ??今度は」
「喜ぶがいい。お前の望みは漸く叶う」
俺の足が止まった。
「なんだと・・・」
「お前もわかっている筈だ衛宮士郎。正義の味方となるためには対となる存在が必要である事を」
正義の味方の対となる存在・・・すなわち悪と言う事・・・
この男に言われるのは気に障る。
しかし、この男の言葉には一つの真実もあった。
確かに正義を名乗るには対立する者を悪と呼ばなくてはならない。
この男はそれを明確に尚且つ隠す事無く言い当てたのだ。
だがそれでも・・・どうしようもなく気に障った。
俺はそれに何も答える事無く今度こそ教会を後にした。
「サーヴァントを失ったらここに来るがいい。身の安全は保障する」
閉じかけたドア越しにそんな声が聞こえた。
「衛宮君随分と遅かったわね」
「すまないな凛。言峰に呼び止められていた」
「そう・・・」
ただそれだけ言うと固い表情のまま凛は無言で踵を返す。
「・・・先輩・・・」
桜は泣きそうな表情で声を掛けるが俺は敢えてそれを無視する。
「シロウ」
「遅くなったなセイバー、少しあの神父と話していたものでな」
「いえ、シロウが無事でしたら」
「そうか・・・」
俺達三人は重苦しい空気のまま新都から深山町に戻る。
そして交差点にまで来ると不意に凛が振り返る。
「じゃあ衛宮君、これから先私達は敵よ」
「・・・だが、凛」
「あんたはこの『聖杯戦争』を戦うと決めたんでしょう?私達も戦う。そうなればもう道は一つしかないんじゃないの?」
「・・・」
何か言おうにも言えなかった。
「桜、帰りましょう」
「はい・・・先輩・・・すいません」
そう言い二人は立ち去ろうとした時、
「あれ?もう帰っちゃうの??」
無邪気な声が響いた。
「!!」
俺が振り返るとそこには・・・
鉛色の巨人を従えた一人の少女が・・・一昨日偶然出会った少女が・・・立っていた。
「・・・サーヴァント・・・」
しかしこの威圧はなんだ・・・セイバーの比ではない・・・
「まさかあれ・・・バーサーカー・・・?」
横では凛が呆然と呟く。
狂戦士・・・バーサーカーのサーヴァント・・・理性を引き換えに全ての能力を引き上げた、セイバーを最良と称するなら最凶と呼ぶに相応しいサーヴァント・・・
ではあの少女がマスター??
そんな中雪を思わせる白い少女が優雅に尚且つ冷徹に告げる。
「はじめましてリン、サクラ。私はイリヤ、イリアスフィール・フォン・アインツベルン」
「アインツベルン・・・」
呆然と俺は呟いた。
大聖杯『天の杯』を作り上げた三大家遠坂・間桐・そしてアインツベルン・・・イリヤスフィール・・・イリヤ・・・では・・・あの子は・・・あの子こそが・・・
「あ、お兄ちゃん、やっとお兄ちゃんもサーヴァントと契約したんだ」
そんな俺の苦悩を尻目にイリヤは俺を見て心底楽しそうにそんな事を言う。
「・・・アーチャーどう??」
何時の間にかアーチャーとライダーは実体化し二人の前に立つ。
「厳しいな・・・」
「ライダー・・・」
「私とセイバー、そしてアーチャーの三対一で辛うじて互角と言った所でしょうか・・・」
「嘘・・・」
「一体何を呼び出したのよアインツベルンは・・・」
そんな凛の声が聞こえたのかイリヤは楽しそうに告げる。
「特別に教えてあげようか?私のバーサーカーはギリシア神話最強の英雄よ」
「!!ま、まさか・・・ヘラクレスだと??」
絶句した。
通常のクラスでも厄介であろうヘラクレスをよりにもよってバーサーカーにしただと??
不意に師匠の警告が甦る。
『良いか士郎、聖杯戦争においてマスターになるのは良い。しかし、アインツベルンには気をつけよ。あれの聖杯追求の理念は堕落したが聖杯を追い求める信念は呪いに達している。出来ればあれには関わらん事じゃな』
つくづくだがゼルレッチ老の言葉は正しかった。
「甘く見たものね。サーヴァントの真名を自分から明かすなんて」
「良いのよ。どうせ私のバーサーカーに勝てるサーヴァントなんていないんだし」
「シロウ、私に命令を、バーサーカーと戦う許可を」
「・・・」
「シロウ!!」
我を暫し忘れていた俺にセイバーの叱責が飛ぶ。
「!!あ、ああ・・・すまんが少し待ってくれ」
「えっ??し、シロウ!!」
それだけ告げると俺は一歩進む。
「イリヤ・・・一つ聞きたい」
「いいよ何?ここで死ぬんだから何でも聞いて良いよ」
「アインツベルンはやはり聖杯を求めるのか?」
「もちろんよ。聖杯を得るのはアインツベルンの悲願よ。今までは失敗したけど今回こそは・・・」
「それがもうアインツベルンの求めているものと程遠くてもか?」
「・・・何が言いたいの?シロウ」
「もう・・・やめるんだイリヤ。どう足掻こうと聖杯は誰の手には入らない。この戦いは無益なんだ・・・だから・・・止めてくれ」
「ふ〜ん、用はシロウ、死ぬのが怖いんでしょう。見た所たいした魔力も無い様だし。泣き言はおしまい?じゃあやっちゃえバーサーカー」
その瞬間鉛色の狂人が宙を舞い着地する。
その手には岩石で出来た大剣を持って。
「あ、ああああああ」
真正面から対峙した俺は死の恐怖に囚われた。
志貴と共に戦った死徒や幻想種など眼の前に立つ巨人に比べれば赤子に等しい。
あの剣に僅かでも掠めればその部分は根こそぎ削ぎ落とされるに決まっている。
それだけ力の差ははっきりとしている。
明白すぎる。
怖い・・・怖い・・・怖い怖い・・・怖い怖い怖い・・・怖い怖い怖い・・・怖い恐い怖い怖い恐い怖い恐いこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワ「シロウ!!」
「!!」
圧迫感で生きながらにして殺されかけた俺だったがセイバーの声で我を取り戻す。
情け無い話だが唐突に現れた所為で心の準備が出来ていなかった様だ。
(俺もまだまだか・・・)
ようやく苦笑する余裕を取り戻すと、後方に跳躍する。
そして入れ替わる様にセイバーがバーサーカーに真正面から対峙する。
そして次の瞬間
「はああああああああ!!」
「――――――――――!!!!」
セイバーの裂帛の気合の声とバーサーカーの声にならない咆哮が重なり戦闘が始まる。
「アーチャー!!!セイバーの援護に」
「良いのかね??セイバーとは敵対するのでは??」
「あんたね、今回は例外よ!!さっさとする!!」
「・・・了解した」
「ライダー」
「判りました。サクラは後方で待機を」
凛の指示でアーチャーが遠距離より弓を射かけ、桜の命を受けたライダーがその速度を生かした遊撃戦を行う。
しかし、
「だめだ・・・」
「えっ??」
俺は思わず感想をそのまま口に出す。
全員の攻撃がまるで効いていない。
かわしている訳でもない。
バーサーカーは全て弾き飛ばしている。
アーチャーの矢を受けるがままにし、ライダーの一撃を蝿の様に黙殺し、ただ前方のセイバーのみに集中している。
それだけセイバーはバーサーカーにとっても脅威だと言う事だが、そのセイバーも押されている。
供給される魔力には不足は無いとセイバーは言っていた。
そうなれば純粋に能力差という事になる。
「くそっ・・・」
こうなれば仕方ない。
このままではジリ貧だ。
グローブを脱ぎ、
「同調開始(トーレス・オン)」
自らを『錬剣師』に変える。
そのままバーサーカーの側面に回りこみがら空きとなった脇腹目掛けて
「投影開始(トーレス・オン)」
黄金の鉄槌を放つ。
「猛り狂う雷神の鉄槌(ヴァジュラ)!!」
まさしく稲妻となりバーサーカーを目指すヴァジュラを察知したのかセイバーの一撃を弾き返す刀で撃墜しようとする。
「―――――――――!!!!」
「甘い・・・壊れた幻想(ブロークン・ファンタズム)」
予想通りだったので慌てる事無くヴァジュラを爆破する。
その爆風にややたじろいでいる隙に
「投影開始(トーレス・オン)」
ランサーと打ち合った魔剣を創り出す。
「吹き荒ぶ暴風の剣(カラドボルグ)!!」
距離にして十数メートル、絶対に届く筈の無い間合いだったがそんなもの何の意味も無い。
ガラドボルグは鞭の様に伸び刃先がバーサーカーの脇腹に軽く突き刺さる。
無論こんなもの相手には掠り傷にもなる筈が無い。
俺は何の躊躇い無く手を離す。
その瞬間、ガラドボルグは刃先に引き寄せられる様にバーサーカーの元に引っ張られる。
そして、剣が元の形に戻った瞬間
「プレゼントだ。しっかりと受け取れ・・・壊れた幻想(ブロークン・ファンタズム)」
爆発がバーサーカーの零距離で炸裂する。
「――――――!!!」
流石にこれは効いた様だ。
仰け反り苦悶の咆哮を上げる。
「今だ!!」
俺の言葉を聞くまでも無い。
セイバーが更に一撃を加える。
まともに受けて片膝を付いて俯くバーサーカー。
決めたと思われたが、まだ甘かった。
止めの一撃を加えようとしたセイバーの一撃を容易く弾き飛ばし、逆にセイバーを吹き飛ばす。
空中で体勢を立て直し綺麗に着地するセイバー。
幸いダメージは少ないようだ。
「くそっ!なんてタフな」
咄嗟に再度投影を実行しようとした瞬間、視界の片隅に赤い何かを見たような気がした。
そちらに一瞬意識を向けたのがいけなかった。
「投影・・・??!!!がっ・・・ああああ」
「ふう危なかった」
体が痺れて身動きが出来ない。
気がつけばイリヤが俺の眼の前にいた。
「な、何を・・・」
「簡単よシロウ、少し動けなくしただけよ。それにしても驚いたわ。まさかただの人間がバーサーカーを一回殺しかけるなんて」
一回殺しかける??どう言う事だ??
まったく意味がわからない。
「でも油断したわね。少しセイバーと離れすぎよ」
それは自覚していた。
ただ、凛達を巻き添えにしない為にはこうするしかなかったのも事実だった。
「まあ良いわ。バーサーカー、今日は帰るわよ。それと士郎も連れて行くから運んで。くれぐれも丁寧に扱わないと駄目よ」
イリヤの命令に忠実に従い俺を軽く握り(それでもプロレスラーが力いっぱい握るのと変らない)、イリヤを己の肩に乗せる。
「くっ!!ま、待て!!シロウをどうする気だ!!」
「あら、どうしようと私の勝手でしょ??それと変な事するとシロウをその場で握りつぶしちゃうわよ」
「くっ!!」
「アーチャー、下手に動かないで」
「先輩!!」
イリヤの言葉に偽りは無い。
もしセイバー達が妙な動きを見せれば何の躊躇い無くバーサーカーに俺を握りつぶせと命じる。
皆それを判っているのか動くに動けない。
「さてと、じゃあ帰るわよ。それとシロウは少し眠っていて」
その瞬間俺の意識は完全にシャットアウトされた。